〜
12月22日
8月21日(水)配信
【事件概要】
この事件は、被控訴人の請求を認容した原判決(大阪地方裁判所平成27年(ワ)第4292号判決)を不服として控訴人が控訴した事案である。知的財産高等裁判所は控訴を棄却した。
▶判決文を「IP Force 知財判決速報/裁判例集」で見る
【主な争点】
被控訴人の損害額
【結論】
特許法102条2項の上記趣旨からすると、同項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額とは、原則として、侵害者が得た利益全額であると解するのが相当であって、このような利益全額について同項による推定が及ぶと解すべきである。…。
特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は、侵害者の侵害品の売上高から、侵害者において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり、…。
…、控除すべき経費は、侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となったものをいい、…。これに対し、例えば、管理部門の人件費や交通・通信費等は、通常、侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費には当たらない。…。
特許法102条2項における推定の覆滅については、同条1項ただし書の事情と同様に、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。例えば、①特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性)、②市場における競合品の存在、③侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、④侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情について、…と同様、…、これらの事情を推定覆滅の事情として考慮することができるものと解される。
特許法102条3項は…旨規定する。そうすると、同項による損害は、原則として、侵害品の売上高を基準とし、そこに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。…、同項に基づく損害の算定に当たっては、必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべき料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
したがって、実施に対し受けるべき料率は、①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべきである。
…、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、本件での実施に対し受けるべき料率は10%を下らないものと認めるのが相当である。…。
【コメント】
裁判所は、控訴人らの主張する控除すべき経費のうち試験研究費及び宣伝広告費の一部については控除すべき経費に当たるが、その余については控除すべき経費とみるのは相当ではないとし、また、控訴人らの主張する事情は「いずれも、特許法102条2項の推定覆滅事由とはならない」とした。
(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 吉住和之)
書誌等(裁判所ウェブサイトまたは知的財産高等裁判所ウェブサイト)
こんな記事も読まれています