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特許 平成30年(行ケ)第10043号「複数分子の抗原に繰り返し結合する抗原結合分子」(知的財産高等裁判所 令和元年6月26日判決)

11月13日(水)配信

 

【事件概要】

 実施可能要件に適合すると判断した無効審判の審決が取り消された事例。

判決文を「IP Force 知財判決速報/裁判例集」で見る

 

【争点】

「【請求項1】少なくとも可変領域の1つのアミノ酸がヒスチジンで置換され又は少なくとも可変領域に1つのヒスチジンが挿入されていることを特徴とする,抗原に対するpH5.8でのKDpH7.4でのKDの比であるKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が2以上,10000以下の抗体であって,血漿中半減期が長くなった抗体を含む医薬組成物。」に関して、あらゆる抗体の可変領域においてヒスチジン置換又はヒスチジン挿入をおこなって、「抗原に対するpH5.8でのKDpH7.4でのKDの比であるKD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値が2以上,10000以下の抗体」を過度な実験を要することなく取得することができるか。

 

【結論】

(イ) 実施例2について

 ホモロジーモデリングを用いる実施例2の方法については,構造未知の抗体一般についてヒスチジン置換位置を検討する場合に常に利用できるとは限らないものである。

(ウ) 実施例3について

 実施例3には,ヒスチジンスキャニングの手法によって,CDRの残基をヒスチジンに置換しても結合能に大きな変化がない箇所を予め選び出し,当該箇所のいずれか1か所がヒスチジン置換された抗体を作製する方法が記載されている。この方法は,上記()の実施例2の方法とは異なり,構造未知の抗体に対しても適用可能であるということができる。しかし,本件明細書の記載からは,実施例3における「CDRの残基をヒスチジンに置換しても結合能に大きな変化がない箇所」に,本件発明1の抗体のヒスチジン置換箇所が必ず含まれるかは不明である。

 

【コメント】

 本件(事件番号の末尾44号と45号も同旨)は、血漿中(pH7.4)よりもエンドソーム中(pH5.8)での抗原に対する解離定数(KD)が大きい改変抗体であって、エンドソームの下流(ライソソーム)で分解されずに血管にリサイクリングされる「血漿中半減期が長くなった抗体」の(原告主張の)「リーチ・スルー」クレームに関するものである。

 あらゆる抗体に権利が及ぶ広範なクレームであることも考慮して、ヒスチジンスキャニングというある程度合理的な手法が記載されているものの、当該手法を用いた具体的な成果物(改変抗体)が十分に示せていなかったために、実施可能要件に適合しないと判断されたようである。

 

(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 田村明照)

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