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1月12日
12月4日(水)配信
【事件の概要】
「まつ毛エクステンションの施術」を指定役務とする原告商標に係る商標権を有する原告が、被告がこれと同一又は類似の標章(以下、「被告標章」という。)を商標として使用したことが原告の商標権を侵害すると主張し、損害賠償を請求したが、裁判所は原告が原告商標権に基づいて権利行使をすることは権利の濫用に当たり許されないとして、原告の請求を棄却した事案である。
なお、被告会社の前身である訴外A社が原告と業務提携をしており、その際に訴外A社が被告標章を自己の店舗の店名として使用していたが、原告と訴外A社が業務提携を解消する直前に、原告が当該標章につき商標登録したものである。
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【争点】
原告が被告に対し、被告標章の使用について、原告商標権に基づき権利行使をすることは権利の濫用に当たるか。
【裁判所の判断】(カッコ内は筆者が加筆した。)
訴外Aと原告は、(業務提携中に)それぞれが独立した企業として事業を営み、訴外Aは自らの店舗の名称として被告標章を使用する一方で、原告商標を使用したことのない原告がこれを出願することが許容されるとすれば、原告と訴外Aとの業務提携関係の存続に根拠を求めざるを得ず、逆に、業務提携が解消された場合には、それぞれが従前の状態に復するだけであり、特段の協議も合意もないのに、原告が自らの名で出願したとの一事をもって、原告が本件商標の使用を独占し、訴外Aが、それまで使用していた被告標章を使用できなくなるといったことはおよそ予定されていなかったというべきであり、訴外Aの業務を承継した被告についても同様である。
…原告が被告に対し、被告標章の使用について、原告商標権に基づく権利行使をすることは、権利の濫用に当たり許されないというべきである。
【コメント】
裁判所は、権利の濫用該当性の判断の際、「商標法の目的や趣旨から考えて正当に標章が帰属すべき主体は誰か」という点を重視しているように思われる。本判決においても、原告は原告商標を使用したことがなく、元々訴外Aやその業務を承継した被告が出願前後において被告標章を使用していたこと等の事情から、正当に標章が帰属すべき主体は、被告であったと考え、権利の濫用を認めたものと考えられる。
なお、類似の裁判例として、ポパイマフラー事件(最判平成2年7月20日民集44巻5号876頁)、トロイブロス事件(東京地判昭和59年5月30日判タ536号398頁)、ぼくは航空管制官事件(東京地判平成14年5月31日判時1800号145頁)等がある。
(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁護士 佐藤慧太)
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