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特許 令和元年(行ケ)第10100号「窒化物半導体積層体及びそれを用いた発光素子」(知的財産高等裁判所 令和2年3月19日)

6月17日(水)配信

 

【事件概要】

進歩性を否定して特許を取り消した異議決定が取り消された事例。

▶「判決本文」を見る

 

【主な争点】

周知技術の認定誤りの有無。

 

【結論】

引用文献4から6に記載された発光素子は,いずれもAlGaN層又はAlGaAs層を組成傾斜層とするものであるが,引用文献4では緩衝層及び活性層における結晶格子歪の緩和を目的として緩衝層に隣接するガイド層を組成傾斜層とし,引用文献5では,隣接する2つの層(コンタクト層及びクラッド層)の間のヘテロギャップの低減を目的として当該2つの層自体を組成傾斜層とし,引用文献6では,隣接する2つの半導体層の間のヘテロギャップの低減を目的として2つの層の間に新たに組成傾斜層を設けるものである。このように,被告が指摘する引用文献4から6において,組成傾斜層の技術は,それぞれの素子を構成する特定の半導体積層体構造の一部として,異なる技術的意義のもとに採用されているといえるから,各引用文献に記載された事項から,半導体積層体構造や技術的意義を捨象し上位概念化して,半導体発光素子の技術分野において,その駆動電圧を低くするという課題を解決するために,AlGaN層のAlの比率を傾斜させた組成傾斜層を採用すること(本件技術)を導くことは,後知恵に基づく議論といわざるを得ず,これを周知の技術的事項であると認めることはできない。

 よって,本件技術が周知の技術的事項であるとして,相違点1,2に係る構成に想到することが容易であるとした本件取消決定の判断には誤りがある。

 

【コメント】

複数の文献に基づいて周知技術が認定される際に,各文献の記載事項から認定しようとする周知技術と直接関係しない事項が捨象されることはよくあることである。しかし,周知技術の技術的意義に関係する事項を捨象して周知技術を認定すると,本来は周知技術とは言えない技術を誤って周知技術と認定することにつながる。本判決は,そのような周知技術を認定する際の注意点を示したものとして参考になると思われる。

 

 

(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 小曳 満昭)

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