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12月15日
12月16日(水)配信
特許異議の申立てにおいて明確性要件違反と判断した特許取消決定を知財高裁が取り消した事例。
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請求項1の「示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上」という記載の意義が不明であるから、請求項1に係る発明(両面粘着テープ)が明確性要件違反であると判断した決定は妥当であるか。
本件特許請求の範囲には、複数のピークが生じる場合に、特定のピークを選択する旨の記載や、全てのピークが140℃以上であることの記載が存在しないところ、上記のとおり、実施例1~7の発泡体は、比較例2、3と同じ直鎖状低密度ポリエチレンを20~60重量%で含有するから、【表1】に記載された141.5~147.4℃(140℃以上)の結晶融解温度ピーク以外に、140℃未満の結晶融解温度ピークを含むであろうことは、当業者であれば、上記イの技術常識により、容易に理解することができる。このことは、原告による実施例2の追試結果の図(甲8)や甲10の図4とも符合する。
そうすると、本件明細書(【表1】)の実施例1~7についての結晶融解温度ピークは、複数の結晶融解温度ピークのうち、ポリプロピレン系樹脂を含有させたことに基づく140℃以上のピークを1個記載したものであることが理解できるから、「示差走査熱量計により測定される結晶融解温度ピークが140℃以上」は、複数の結晶融解温度ピークが測定される場合があることを前提として、140℃以上にピークが存在することを意味するものと解され、このような解釈は、上記アの解釈に沿うものである。
実施例及び比較例並びに技術常識を参酌すれば、特許請求の範囲の「結晶融解温度ピーク」の意義が明らかであるとの結論であり、明細書全体の記載から発明を十分に理解した上での判決の判断には納得感がある。特許取消決定においては、別途「実施例1~7の態様を除き、・・・発明の詳細な説明に実質的に記載されているとはいえない。」との実施可能要件・サポート要件違反の指摘もあり、複数の実施例と比較例を一つの発明概念として包括的に捉える努力が少し欠けていたようである。
(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 田村 明照)
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