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12月15日
1月6日(水)配信
【事件概要】
本件は、無効審判において、「本件審判の請求は、成り立たない。」とした審決が維持された事例である。
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【争点】
争点は、主にサポート要件に係る判断の誤りの有無である。
【結論】
本件発明は、請求項に記載された構成を採用することにより、一方向性電磁鋼板の鉄損をヒステリシス損と渦電流損に分け、特に磁区細分化による渦電流損の観点から、歪及び応力分布を表面内だけでなく、板厚内部も含めて定量的に適正な条件下で制御することにより、優れた一方向性電磁鋼板を提供するとの課題を解決したものと認められる。
一方、本件発明の課題における「優れた一方向性電磁鋼板」とは、本件明細書の「鉄損特性に非常に優れた一方向性電磁鋼板を提供でき」るとの記載や、実施例の一方向性電磁鋼板が比較例に比べて低鉄損特性に優れていた旨の記載からみて、鉄損特性に優れた一方向性電磁鋼板を意味すると解される。
そうすると、当業者は、本件明細書の詳細な説明の記載から、本件各発明の課題を解決できると認識することができ、また、本件発明に係る特許請求の範囲の記載は、詳細な説明に記載されたものである。
【コメント】
原告は、板厚方向に対する引張り応力の「最大値が40MPa以上」であることは、本件明細書の図5を根拠として導き出されたもので、このような特定の条件の下で得られた数値をもとに本件発明に一般化することはできないと主張したが、判決は、ヒステリシス損増加抑制の機序は、その引張り応力の値が降伏応力以上になると、板厚内部の塑性域が磁壁のピンニングサイトとして働き、鉄損の一部であるヒステリシス損が増加するという関係があることから、引張り応力の最大値を降伏応力以下とすれば、ヒステリシス損の増加を抑制することができるというものであり、同様に発明の詳細な説明の記載から理解することができるとして、原告の主張を採用しなかった。
(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 阿部 寛)
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