- 事件概要
拒絶査定不服審判において新規事項の追加と判断した審決を知財高裁が取り消した事例。
▶「判決本文」を見る
- 争点
請求項1の「透光性を有する不織布又は織布からなるカバー体とを備え、」との補正について、このカバー体が「透光性」を有することは、当初明細書等の記載から自明な事項といえるか。
- 結論
本件出願よりも前の時点において、織布又は不織布に遮光性能を付与するために、特殊な製法又は素材を用いたり、特殊な加工を施したりするなどの方法が採られていたことからすれば、本件出願時において、織布又は不織布に遮光性を付与するためにはこのような特別な方法を採る必要があるということは技術常識であったといえる。・・・
本件当初明細書等の記載内容からすれば、当業者は、本件カバー体を構成する織布又は不織布について、特殊な製法又は素材を用いたり、特殊な加工が施されたりするなど、遮光性能を付与するための特別な方法は採られていないと理解するのが通常であるというべきである。
そうすると、本件当初明細書等に接した当業者は、本件カバー体は透光性を有するものであると当然に理解するものといえるから、本件カバー体が「透光性を有する」という事項は、本件当初明細書等の記載内容から自明な事項であるというべきである。
- コメント
「透光性を有する」という技術的事項を導き出すに際して、対極にある「遮光性を付与する」方法に着目して技術常識を検討し、本件当初明細書において、このような方法が用いられていないことを根拠に「透光性を有する」という技術的事項を導き出している。確かに論理的ではあるものの、審理手法にちょっとした発想の転換が必要だったトリッキーな事案である。
(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 田村 明照)