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11月24日
9月1日(水)配信
【事件概要】
無効審判において進歩性ありと判断した審決を知財高裁が支持した事例である。
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【争点】
相違点4に係る本件発明の「シリコーン処理された容器中に含まれる多糖類-タンパク質コンジュゲートの、シリコーンにより誘発される凝集を阻害する」という、「製剤」に係る本件発明の「作用効果」が発明特定事項として存在することにより、本件発明の進歩性が肯定できるか。
【結論】
本件発明の製剤がシリコーン誘発凝集の阻害という効果を奏するという発明特定事項の技術的意義は、次のように理解される。
①シリコーン誘発凝集には、肺炎球菌の血清型を問わず,遊離肺炎球菌コンジュゲートが関与している。
②本件発明の製剤が(i)~(iii)の組成を備えることにより、溶液中においては、肺炎球菌CRMコンジュゲートとアルミニウム塩とが結合し、遊離の肺炎球菌CRMコンジュゲートの量が相対的に減少した状態にある。
③上記②の状態にあることにより、上記①の原理によるシリコーン誘発凝集が阻害される。・・・
相違点4に係る本件発明の発明特定事項、すなわち「シリコーン処理された容器中に含まれる多糖類-タンパク質コンジュゲートの、シリコーンにより誘発される凝集を阻害する」は、肺炎球菌CRMコンジュゲートとアルミニウム塩が結合して、溶液中の遊離肺炎球菌CRMコンジュゲートの量が所期の量まで減少した状態であることにより、遊離肺炎球菌CRMコンジュゲートが関与するシリコーン誘発凝集が阻害されることを意味する。
これに対し,・・・公知発明1に接する当業者は、リン酸アルミニウムに吸着された肺炎球菌CRMコンジュゲートが公知発明1の製剤に含まれることを認識するにとどまり、公知発明1の製剤溶液中における遊離肺炎球菌コンジュゲートの有無及び量を、遊離肺炎球菌コンジュゲートが関与するシリコーン凝集という課題との関係で認識することは容易ではなかったといえる。
【コメント】
医薬組成物である本件発明の「製剤」において、「シリコーン処理された容器中に含まれる多糖類-タンパク質コンジュゲートの、シリコーンにより誘発される凝集を阻害する」という「作用効果」を発明特定事項とすることにより、あたかも用途発明が成立したのではないかと感じる実務者も多い。
しかしながら、用途発明が成立したのではなく、この「作用効果」が発明特定事項として存在することによって、溶液中の遊離の肺炎球菌CRMコンジュゲートの量が低減される態様でアルミニウム塩が添加されているという、本件発明の「製剤」のもう1つの発明特定事項である「アルミニウム塩」の役割が引用発明(公知発明1)とは大きく異なってくる。本件発明と引用発明とは構成上類似しているものの、上記判決文に記載されるように、「作用効果」を発明特定事項としたことにより、本件発明と引用発明の技術的意義の差異が明確となっている。
原告(無効審判請求人)は、この「作用効果」について、「単なる『発見』にすぎない」として引用発明と実質的に同一である旨を主張したが、裁判所は、「発明の構成において違いはないという前提があって初めて、・・・凝集のメカニズムを『発見』したにすぎないという議論が成り立ち得る」と指摘して、他に構成上の相違がある本件では採用しなかった。
(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 田村 明照)
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