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11月24日
12月20日(水)配信
【事件概要】
本件発明1~3はサポート要件に適合するとした審決の判断は誤りがあるとして、特許無効審判請求に対する不成立審決が取消された事例。
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【主な争点】
本件発明1~3はサポート要件に適合するか否か。
【結論】
本件発明1は、…回転子積層鉄心を押圧する際の上型及び下型に対する回転子積層鉄心の配置及び上型と下型との位置関係又は状態を特定する発明であるのに対し、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明は、…「回転子積層鉄12の下面25が当接する矩形板状のトレイ部26と、トレイ部26の中心部に立設され、回転子積層鉄心12の軸孔11に嵌入する直径固定型で棒状のガイド部材27とを有している搬送トレイ16にセットされた回転子積層鉄心12を下型17上に搬送し」、「搬送トレイ16を回転子積層鉄心12と共に、下型17から取り外し、回転子積層鉄心12が搬送トレイ16から取り外される」ものであるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によると、搬送トレイを不可欠の構成としているものと解される。そうすると、本件発明1には、回転子積層鉄心を搭載する搬送トレイを含む構成の発明だけでなく、この搬送トレイを含まない構成の発明も含まれており、搬送トレイを構成に含まない特許請求の範囲の記載を前提にした場合、上記発明の詳細な説明の記載から、当業者が、積層鉄心を下型の有底穴部に嵌挿し、加熱後、積層鉄心を下型の有底穴部から取り出す作業は、人手又は機械によっても、時間を要するもので、作業性が極めて悪いこと(従来技術の問題2)を解決して、生産性及び作業性に優れており、安価に作業ができる永久磁石の樹脂封止方法を提供するという本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。そして、この点は本件発明2及び本件発明3も搬送トレイを構成に含まない発明を含むため、同様であるといえる。
【コメント】
判決は、「本件審決は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された本件発明の実施の形態について、当業者が課題を解決できると認識できることをいうにとどまり、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明で、その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断したものとはいえない。」とも判示し、審決においてサポート要件の判断の枠組みに沿った検討が不十分であったことを指摘している。
ところで、本件特許出願は分割出願の第7世代に当たるものである。複数世代にわたって分割出願が継続されていくと、その過程で当初明細書に記載された課題を解決するのに不可欠な構成を含む発明は権利化されていることが多い。そのため、後続の分割出願では、クレームから不可欠な構成が削られていき課題との関連性が低い発明が構築されていくことがある。本件特許出願がそのようなケースに当たるかどうかはともかくとして、分割出願におけるクレーム作成時には、サポート要件への適合性についても軽視しないよう注意が必要だろう。
(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 和田 雄二)
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