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特許 令和5年(行ケ)第10054号「保護部材」
(知的財産高等裁判所 令和6年2月13日)

5月22日(水)配信

 

【事件概要】
 進歩性を肯定した特許無効審判の審決が維持された事例。
判決文を「IP Force 知財判決速報/裁判例集」で見る

 

【主な争点】
 本件発明1と甲8発明との間の相違点1(「本件発明1は、『保護部材』が『使用者が手で掴むグリップ部』を有し、『保護部』が『前記グリップ部の下側に位置し、前記グリップ部の外周面よりも外側に突出させて前記グリップ部を掴んだ手』を保護するのに対して、甲8発明は、『グリップ部』は『ハンドル』の一部であり、『台車用安全カバー』が有するものではなく、『本体』が『寸法を外径106mm、内径26mm、長さ100mm及び厚み40mmとし、グリップ部を掴んだ手が周囲の物体に接触しないようにする』点。」という相違点)に係る構成が容易想到か否か。

 

【結論】
 甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルの水平部分をグリップ部とすることを前提として、コ字状のハンドルのカーブ部分に取り付ける台車用安全カバー(保護部材)であって、これによって手挟み事故の防止を図るものであるから、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材)にグリップ部を設けることは全く想定されていないといえる。
そうすると、仮に、台車の手押部材にグリップ部を設けること、又は台車等の保護部をグリップ部と一体化したものとすることが、本件優先日の時点で周知技術であったとしても、甲8発明の台車用安全カバー(保護部材)に接した当業者において、これらの周知技術を甲8発明に適用する動機付けがあったとは認められない。

 

【コメント】
 本件発明は、「運搬台車の4隅に位置する挿入孔に挿入される長尺の棒状部材に対して取り付けられる保護部材であって、使用者が手で掴むグリップ部と、前記グリップ部の下側に位置し、前記グリップ部の外周面よりも外側に突出させて前記グリップ部を掴んだ手が周囲の物体に接触しないように保護する保護部と、前記棒状部材が挿入される取付穴と、を有し、前記取付穴に前記棒状部材が挿入される方向から見て、前記保護部は、略円形であることを特徴とする保護部材。」というもの(下線は筆者において付した。)であって、「保護部材」という物の発明であるが、他の装置である「長尺の棒状部材」に関する事項を用いて特定しようとする記載のあるものである。判決はこれを踏まえ、本件発明と甲8発明の間には、審決が認定した上記相違点に加え、「(本件発明1の『長尺の棒状部材』は長尺の直線状の部材を指すと認められるから、)甲8発明の台車用安全カバーは『コ字状のハンドルのカーブ部分に取り付けられる』ものであるのに対し、本件発明1の保護部材は長尺の棒状部材に対して取り付けられる点」という相違点もあると認定し、それを前提に上記結論のように判断した。
 原告(特許無効審判請求人)は、甲8の商品の製造販売元会社の代表取締役の陳述書を提出し「甲8発明の台車用安全カバーは、直線の棒にも装着可能であり、コ字状のハンドルのカーブ部分に対してのみ取り付け可能な製品ではない」旨主張したが、判決は、「甲8商品の本体及び取付穴の形状から、物理的には直線の棒に装着することが可能であるとしても、甲8商品のパンフレット等からすれば、甲8発明の台車用安全カバーは、コ字状のハンドルのカーブ部分に取り付けることにより、使用者の手がハンドルの上下方向の直線部分に掛からないように規制し、これによって手挟み事故を防止するものであると認められる。」旨判断し、原告の主張を採用しなかった。
 本件の進歩性の判断には微妙なところもあるが、いわゆる「他のサブコンビネーション」に関する事項を用いて特定された発明、あるいは用途限定がある発明の進歩性を考える際の参考になるように思われる。

 

(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 小曳 満昭)

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