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特許 令和5年(行ケ)第10093号、第10094号
「運動障害治療剤」(知的財産高等裁判所 令和7年2月13日)

5月7日(水)配信

 

【事件概要】
 この事件は、特許無効審判の請求を不成立とした審決の取消しを求める事案である。裁判所は原告の請求を棄却した。
判決文を「IP Force 知財判決速報/裁判例集」で見る

 

【争点】
 審決の本件発明と引用文献に記載された発明(甲3発明)との相違点が当業者に容易想到であるか否か。

 

【結論】
<本件発明と甲3発明との一致点及び相違点の認定>
 このような用途発明としての本件発明と引用発明との一致点及び相違点の認定に当たっては、引用発明が用途発明として認められるか否かを吟味し、用途発明としての一致点を抽出できないときは、これを相違点として明らかにすべきである。
 そして、特に医薬の分野においては、機械等の技術分野と異なり、構成(化学式等をもって特定された化学物質)から作用・効果を予測することは困難なことが多く、対象疾患に対する有効性を明らかにするための動物実験や臨床試験を行ったり、あるいは、化学物質が有している特定の作用機序が対象疾患に対する有効性と密接に関連することを理解できる実験を行うなど、時間も費用も掛かるプロセスを経て、実施可能性を検証して、初めて用途発明として完成するのが通常である。このこととの平仄から考えても、引用発明が用途発明と認められるためには、…、当該物質(薬剤)が対象用途に有用なものであることを信頼するに足るデータによる裏付けをもって開示されているなど、当業者において、対象用途における実施可能性を理解、認識できるものでなければならないというべきである。このように解さないと、上記のようなプロセスを経て完成された実施可能性のある医薬用途発明が、実施可能性を認め難い引用発明によって、簡単に新規性、進歩性を否定されることになりかねず、その結果は不当と考えざるを得ない。
 …。
 そうすると、甲3発明の薬剤が、「進行期パーキンソン病患者におけるオフ時間の持続を減少させるため」に使用できる(実施可能である)と当業者が理解、認識するものであるとは認められないというべきである。
 …。
 そこで、改めて本件発明と甲3発明の一致点及び相違点を検討すると、正しくは以下のようなものとして認定すべきである。
[一致点](略)
[相違点1]本件発明は、「L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために患者に投与され」る用途発明としての「薬剤」であるのに対し、甲3発明は、そのような用途発明とは認められない点。
[相違点2](略)
<相違点1について>
 …、テオフィリンやアデノシンA2A受容体アンタゴニストについてのさらなる試験研究の結果を見るまでもなく当然に、甲イ3からは、甲3発明の薬剤の用途を、本件発明の薬剤の用途とすることについてまで、当業者に動機付けられるとはいえない。

 

【コメント】
 裁判所は、原告の「甲3発明の薬剤の用途を本件発明の薬剤の用途とすることが当業者において認識できること」を前提とする主張を採用しなかった。

 

(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 吉住 和之)

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