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審査官ガイドラインに関する追加メモを発表

9月2日(月)配信

 ⽶国最⾼裁判所は、Mayo 裁判(2012 年)および Alice 裁判(2014 年)において、⽶国特許法 101 条に規定される特許対象性を満たす条件を厳しくする判決を下した。しかし、両判決は、特許対象性を判断するための明確な基準を提⽰していなかった。そのため、 ⽶国特許商標庁(USPTO)審査官の特許対象性に関する審査基準も不明瞭となり、それゆえ特許対象性の判断を過剰に厳しくする傾向が⾒られた。特に、コンピュータ・ソフトウエアの分野でこの傾向が強くなっていた。そのため USPTO では、特許対象性の有無を判断するための具体例を⽰すために、Mayo/Alice ⽶最⾼裁判決以降の⽶国連邦巡回裁判所(CAFC)判決をベースに審査官ガイドラインを改訂してきたが、さらに今年 5 ⽉には、審査官ガイドラインに関する追加メモを発表した。

 

 今回の追加メモは、特許対象性の審査基準をより明確にし、特許対象性の判断を不当に厳しくする問題に対処する⽬的があると思われる。また、特許対象性を考慮しながらコンピュータ・ソフトウエア関連クレームを作成する上で⾮常に参考になる 2 つの判決を、今年 5 ⽉にCAFC が下している。 今回の USPTO 審査官ガイドラインに関する追加メモおよび注⽬すべき 2 つの CAFC判決について、解説する。

 

1.USPTO 審査官ガイドラインの追加メモ

 ⽶国特許法 101 条で規定されている特許対象性を有するカテゴリーの⼀つである場合、クレームの特許対象性を判断する USPTO のプロセスでは、Mayo/Alice 判決をもとに、審査官は 2 つのステップ<2A>< 2B>を通して、特許対象性の有無に対する最終的な判断を下してきた。ステップ 2A では、クレームが、特許対象性のない⽶国特許法 101 条の例外カテゴリー(⾃然法則、物理現象、または Abstract Idea)を指向しているか否かを判断する。ステップ 2B では、この例外カテゴリー以外の要素がクレームに記載されているかどうかを判断し、またその要素により、クレームを全体として例外カテゴリー以上の重要なものとするかどうかを判断する。 今回の追加メモでは、特許対象性がないとしてクレームを拒絶する際、ステップ 2Aおよび 2B で審査官がすべきことをより明確にしている。

 

 まず、“クレームの記載”を参照して、クレームが例外カテゴリーを指向していることを⽰す。次に、例外カテゴリー以上の付加的要素がクレームに記載されているかどうかを⽰す。そして、付加的要素が単体でも、“他の要素との組み合わせ”でも、クレームを例外カテゴリー以上の重要なものとはさせないことを⽰す。

 今回の USPTO 追加メモで注⽬すべき点は、“クレームに記載されていること”を分析すべきと強調している点である。特許クレームの実体は、クレームの⽂⾔の要約によって分析するのではなく、あくまでクレームの⽂⾔⾃体を分析することによって判断するべきである、と USPTO が審査官に再認識させたといえる。 また、クレームに記載されている付加的要素単体ではクレームを例外カテゴリー以上の重要なものとはさせない場合でも、“他の要素との組み合わせ”によってクレームを例外カテゴリー以上の重要なものとさせる場合は、クレームが特許対象性を有すると判断し得ることを⽰唆している。

 

2.特許対象性に関する最新 CAFC 判決 2.1 Enfish, LLC v. Microsoft Corporation 裁判

 Enfish, LLC v. Microsoft Corporation 裁判では、コンピュータ・データベースのロジカル・モデル作成法に関する Enfish 特許クレームの特許対象性が争われた。CAFC はステップ 2A の分析のみを⾏い、Enfish 特許クレームは Abstract Idea を指向するものではないと判断し、特許対象性があるという判決を下した。 CAFC は、Enfish 特許クレームは単にデータをロジカル・テーブルに保存、配置するという Abstract Idea を指向しているのではなく、具体的なコンピュータ機能の改良を記載している、とした。その結果 CAFC は、Enfish 特許クレームは Abstract Idea を指向しているとみなされないので、特許対象性を分析するステップ 2A において特許対象性があるとみなすことができ、ステップ 2B の分析を⾏う必要はない、とした。

 

 この判決では、いくつかの注⽬すべき点がある。⼀つ⽬は、CAFC が、クレームの特許対象性を判断する際にクレームを過度に要約することを批判している点である。コンピュータの本質な機能は、データを処理、保存、または転送することである。クレームがソフトウエアによって実⾏される⾰新的な処理を詳細に記載していたとしても、その記載を過度に要約すれば、“データを処理、保存、または転送する”処理となってしまう。しかし、本件のように、クレームがコンピュータ特有の⾰新的なデータ作成/処理を記載しているのであれば、⼀般的なコンピュータの機能、すなわち、Abstract Idea を指向していることにならない、といえる。

 

 ⼆つ⽬は、CAFC が、クレームが記載されている重要な要素が単なるコンピュータの⼀般的機能ではないと判断する上で、明細書の記述を参考にしている点である。クレームの重要要素の技術的利点が明細書に記述されている場合、クレームに記載されている⽅法/コンピュータ・システムは、コンピュータの基本的機能という”Abstract Idea”を記載しているのではない、と主張できる可能性がでてくる。

 

 三つ⽬は、発明における技術的改良をクレームが物理的要素(デバイスなど)を⽤いて記載していなくても、クレームが Abstract Idea を指向していないと判断できるとした点である。Enfish 特許の⽅法クレームおよびシステムクレームはどちらも、具体的なデバイス/装置を記載していない。CAFC は、コンピュータ技術の進歩の多くはソフトウエア(論理構造およびプロセス)の改良によるものであり、物理的な特徴によって⽰されるものではないとしている。したがって、クレームが Abstract Idea を指向していないことを⽰すために、具体的なデバイス/装置などを記載していないことが必ずしも不利とならない、といえる。

 

2.2 In Re TLI Communications LLC v. A.V. Automotive, LLC 裁判

 In Re TLI Communications LLC v. A.V. Automotive, LLC 裁判では、モバイルフォンにデジタル画像を記録、保存し、サーバーに転送する⽅法に関する TLI 特許クレームの特許対象性が争われた。CAFC は、Enfish 裁判と同様にクレームを過度に要約すべきではないとしながらも、TLI 特許クレームは特許対象性がないという判決を下した。

 

 CAFC はステップ 2A の分析において、クレームはコンピュータ機能に対する特定の改良を指向したものではないとし、クレームが Abstract Idea を指向している、と判断した。Enfish 裁判と同様に CAFC は、特許クレームの特許対象性を判断する上で明細書の記述も参考にしている。ただし TLI 特許の場合は、明細書が“本発明はデジタル画像を記録、伝達、管理する⽅法に関連する”と、発明がコンピュータの⼀般的機能に関連すると⾃ら認めているような記述をしている。CAFC はこの記述が、クレームは AbstractIdea を指向しているという解釈を⽀持している、とした。

 

 さらに CAFC はステップ 2B の分析において、デジタル画像を分類し、保存する、という Abstract Idea から特許対象性を有する応⽤へと変換させるような単⼀または組み合わせの形態の要素がクレームに記載されていないとし、クレームは特許対象性がない、と判断した。TLI 特許の場合、⽅法クレームは、電話ユニットとサーバーといった物理的要素と⽅法ステップの関連を記載している。しかし、 明細書はそれらの物理的要素は従来の⼀般的機能を持つものであると記述している。このことから、CAFC はそれらの物理的要素はクレームに発明的コンセプトを加えてはいないとした。

 

3.まとめ

 今回の USPTO の追加メモは、 特許対象性の問題にいくつかの対策を⽰唆している。例えば、審査官がクレームの実際の⽂⾔を無視し、過剰に要約することにより、クレームは Abstract Idea を記載しているとし、クレームの特許対象性を否定する状況が⾒受けられていた。そのような場合には、クレームの過剰な要約は適切ではなく、クレームの実際の⽂⾔を⾒るべきだと述べ、クレームの実際の⽂⾔をもとにクレームがAbstract Idea を指向していないことを主張できる場合が考えられる。また、クレームに記載されている要素単体に発明的要素がない場合でも、他の要素との組み合わせに発明的要素がある場合、クレームは例外カテゴリー以上のものを記載していると主張できる場合が考えられる。

 

 また、CAFC 判決は、クレームの記載だけでなく、明細書の記載に関していくつかの対策を⽰唆している。例えば、発明の技術的利点に関する明細書の記載が適切であれば、クレームの特許対象性を⽰す際に有効な場合もあろう。ただし、 今回の追加メモで述べているように、USPTO はクレームの特許対象性を判断するためには”クレームに記載していること”を分析すべき、としている。したがって、USPTO 審査がクレームの特許対象性を判断する際に、クレーム以外の記載である明細書の記載を考慮するかどうかは、期待できないかもしれない。

 

 また、発明の特徴を安易に要約することが、特許対象性を⽰す際に不利になる場合がある。明細書も、クレームがどのように解釈されるか念頭において記述する必要があろう。

 

(2016/8/18⽇経知財Awarenessに掲載された論考を、前川氏のご厚意によりIP Forceに寄稿して頂きました。本稿の著作権は前川氏に帰属しています。掲載時の原稿のまま掲載しています。その後の判決等により解釈等に変更がある場合があります。)