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1月26日
4月8日(水)配信
【事件概要】進歩性を否定した拒絶査定不服審判の審決が取り消された事例。
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【主な争点】相違点1及び相違点2の容易想到性。
【結論】
ア 本願発明と引用発明とは,本願発明が,外面溶接熱影響部における低温靭性の向上を課題として,L2(外面側の鋼板表層から内外面溶融線会合部までの板厚方向距離)/L1(内面側の鋼板表層から内外面溶融線会合部までの板厚方向距離)の上限及び下限を規定しているのに対し,引用発明は,内面溶接金属内におけるシーム溶接部に発生する低温割れの防止を課題として,W2(後続するシーム溶接により形成された溶接金属の厚さ)/W1(先行するシーム溶接により形成された溶接金属の厚さ)の上限及び下限を規定しているのであるから,両者はその解決しようとする課題が異なる。課題解決の手段も異なる。引用発明のW2/W1をL2/L1に置き換える(相違点1に係る構成を採用する)動機付けがあるとはいえない。
イ 本願出願時において,鋼管の周方向に対応する引張強度が600~800MPaの鋼板について,その突合せ部を内外面から1パスずつサブマージドアーク溶接することで,低温靭性に優れたラインパイプ用溶接鋼管を製造することが知られていたこと(引用例2)を考慮しても,鋼板の引張強度が850MPa以上1200MPa以下という条件下でW2/W1を最適化した引用発明において,鋼板の引張強度が570~825MPaのものに変更すること(相違点2に係る構成を採用すること)について,動機付けがあるとはいえない。
ウ よって,本願発明は引用発明及び引用例2の技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
【コメント】
被告(特許庁)は,引用発明のW2/W1の数値範囲を満たす鋼管は,本願発明のL2/L1の数値範囲をも満たすことになるから,相違点1は実質的相違点ではなく,引用発明について,鋼板の引張強度が850MPa未満の場合でも,溶接金属での低温割れが全く生じなくなるわけではないと考えるのが妥当であるから,引用発明において,引張強度が850MPa未満の鋼管を適用する動機付けは存在する旨主張したが,裁判所は,仮にそうだとしても,「引用発明において,溶接金属でのW2/W1の範囲はそのままにして,鋼板の引張強度だけを850MPa未満とすることはできない」として,被告の主張を斥けた。
(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 小曳 満昭)
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