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1月19日
6月3日(水)配信
【事件概要】
この事件は、拒絶査定不服審判の請求を不成立とした審決の取消しを求める事案である。
知的財産高等裁判所は、審決を取り消した。
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【争点】
本願発明が先願明細書等(引用例1)に記載された発明(引用発明1)と同一であるか否か。
【結論】
本願発明と引用発明1は、…、次のとおり…の相違点を有する。
(相違点)
本願発明は「tracr配列が、30以上のヌクレオチドの長さを有」するものであると下限値が特定されているのに対して、引用発明1では、本願発明の「tracr配列」に相当する部分の長さについて明確な特定はなく、「第二及び第三領域」の合わせた長さが「約30から約120ヌクレオチド長の範囲」である点。
本願発明は、「tracr配列の長さ」に着目し、「tracr配列が、30以上のヌクレオチドの長さを有」するものという構成を採用したことによって、ゲノム改変効率が増加することを特徴とするものである。
他方、引用例1には、…、ガイドRNAの第二及び第三領域の合わせた長さは、約30から約120ヌクレオチド長の範囲であり得ること…が記載されているにすぎない。
また、…、本願発明のtracr配列は、引用発明1の第二領域の片方のステムと第三領域を合わせたものに相当すると認められる。しかし、引用例1には、tracr配列(第二領域の片方のステムと第三領域を合わせたもの)の長さそれ自体を規定するという技術思想が表れてはいない。
さらに、本願優先日当時、tracr配列の長さを30以上のヌクレオチドの長さとするとの当業者の技術常識が存在したことを認めるに足りる証拠はない。
よって、引用例1に「tracr配列が、30以上のヌクレオチドの長さを有」するものという構成を採用したことが記載されているといえないし、技術常識を参酌することにより記載されているに等しいともいえない。
【コメント】
被告(特許庁)は、「30以上のヌクレオチド長と特定する本願発明においては、標的配列に依存することなく、改変効率が向上するとの効果を有しているとはいえ」ず、本願発明は新たな効果を奏するものでない旨主張したが、裁判所は、「本願発明は、プロトスペーサー1やプロトスペーサー3以外においても真核細胞のゲノム改変効率が向上する可能性がないということはできない」として、被告の主張を採用しなかった。
(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 吉住 和之)
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