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特許 令和2年(行ケ)第10038号「骨粗鬆症治療剤ないし予防剤」(知的財産高等裁判所 令和3年9月28日)

12月1日(水)配信

 

【事件概要】
 無効審判において進歩性ありと判断した審決を知財高裁が取消した事例である。
判決文を「IP Force 知財判決速報/裁判例集」で見る

 

【争点】
 医薬用途発明に係る本件発明の適用対象である「骨粗鬆症患者」を更に絞り込む「他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がL-アスパラギン酸カルシウム、アルファカルシドール、及び塩酸ラロキシフェンからなる群より選択される1つの薬剤である」(本件条件(4))という発明特定事項により、先行技術(甲7発明)に対する本件発明の進歩性が肯定できるか。

 

【結論】
(イ)本件条件(4)について
 甲7発明の投与対象患者について、他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴に着目し、上記の記載や示唆等に基づき、L-アスパラギン酸カルシウム、アルフアカルシドール及び塩酸ラロキシフェンの服薬歴のある患者を甲7発明の骨粗鬆症治療薬の投与対象とすることは、当業者であれば何ら困難を要しないものである。

(イ)効果②について
 効果②は本件明細書からうかがうことのできない効果である。・・・仮に、上記実験成績証明書を参酌するにしても、甲86証明書は・・・本件3薬剤のいずれかの服薬歴がある患者と当該薬剤の服薬歴がない患者との間で、被験薬を投与された場合の骨密度変化率や新規椎体骨折発生数を対比したものではないから、プラセボ投与との対比による被験薬の骨粗鬆症治療に対する効果しか示されていない。

 

【コメント】
 審査基準第III部第2章第2節3.2.1(2)にも記載されているように、一般に、明細書の記載から当業者にその効果が推論できる場合には、出願後に提出された実験成績証明書が参酌できる。
 そして、本件明細書の実施例2には、表12に基づき、「該表中、被験薬投与後72週時において、当該他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がある患者について被験薬投与群の骨折率が2.9%であり対照薬投与群の骨折率が16.1%であったが、服薬歴のない患者について被験薬投与群の骨折率が3.2%であり対照薬投与群の骨折率が12.9%であった。すなわち、他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がある患者は服薬歴のない患者よりも被験薬有効性が高いことが明らかになった。」との記載がある。
 したがって、本件の無効審判において、実験成績証明書を参酌して、本件条件(4)の発明特定事項に由来する効果②(服薬歴のない患者に対するよりも骨折抑制効果がより増強される効果)を参酌して進歩性を肯定したことも理解できる。
 しかしながら、本件発明は、その有効成分(PTH(1-34))および医薬用途(骨粗鬆症治療剤)は既に公知であって、後発医薬品メーカーは、服薬歴にかかわりなく、後発医薬品の製造販売を試みている。一方、本件発明の特許が維持されれば、後発医薬品を使用する患者の一部が本件条件(4)を満たすことは明らかであるから、特許権者は後発医薬品メーカーを特許権侵害で訴えることが可能となる。
 そこで、裁判所は、「明細書の記載から当業者にその効果が推論できる場合」および実験成績証明書の内容のハードルを高く設定し、本件特許を無効とした訳である。
 本件発明の技術的貢献を考慮すれば、ハードルを高く設定した裁判所の英断は妥当のようにも感じられる。
 しかしながら、無効審判の審決取消訴訟であれば、後発医薬品メーカーの事情等も参酌できるが、後発医薬品メーカーの事情等を参酌できない拒絶査定不服審判の審決取消訴訟においても、裁判所が本件と同じような厳しい判断を行うのかは今後の判決を注視する必要があるだろう。

 

(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 田村 明照)

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