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12月22日
1月8日(水)配信
【事件概要】
本件訂正発明1は、甲1発明、甲2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとして、特許無効審判の請求不成立審決が取り消された事例。
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【争点】
本件訂正発明1と甲2発明との相違点を2つに分けて認定することの是非、及びそれらの容易想到性の判断の誤り。
【結論】
(2)本件訂正発明1と甲2発明の対比
イ …本件訂正発明1と甲2発明は、以下の点で相違するものと認められる。
(相違点Ⅰ)
電動モータに関し、本件訂正発明1は、「…アウタロータ型」であるのに対し、甲2発明は「…インナロータ型」であって、アウタロータ型ではない点
(相違点Ⅱ)
磁石の保持の態様に関し、本件訂正発明1は、磁石が「前記ステータの外周側に隙間を設けて貼設され」ているのに対し、甲2発明は、磁石を保持する態様が明示されていない点
ウ …被告(筆者注:特許権者)は、相違点の認定に当たっては、発明の技術的課題の解決の観点から、まとまりのある構成を単位として認定するのが相当であるところ、…請求項1のB1からB4までの構成は、B電動モータに関するひとまとまりの技術思想を示す発明特定事項であるから、B2の構成のみを独立の相違点Ⅱとして抽出するのは失当であると主張する。
しかしながら、電動モータに使用される磁石がどのように保持されているかという問題は、電動モータの型式如何にかかわらず独立して検討対象となり得る…。したがって、…ステータと磁石を保持するロータとの位置関係による型式(インナモータ型とアウタロータ型)の相違点Ⅰと、電動モータの型式に関わらない事項である磁石を保持する具体的な態様に関する相違点Ⅱを区別して認定することは可能というべきである。被告は、相違点を分けることは、容易想到性について複数のステップを求めることに等しいものであり、容易の容易として認められないとも主張するが、…本件における相違点Ⅰ及び相違点Ⅱは独立したものとして区別し得るものと解されるから、被告の主張は、前提を異にするものであり、採用することはできない。
(3)相違点Ⅰの容易想到性について
ウ …相違点Ⅰについて検討すると、甲2発明は「電動式衝撃締め付け工具」(電動手工具の一種)に係るものであり、甲1発明は「パワーハンドツール」(電動手工具)に応用される「電動モータ」に係るものであるから、両者の技術分野は関連する。また、本件優先日…当時、甲2発明が属する「電動式衝撃締め付け工具」の技術分野においては、その性能においてトルクが重要な要素であり、トルクを高めることが周知、自明の課題であった…。さらに、本件優先日当時、甲1発明のようなアウタロータ型モータは、インナロータ型モータよりも高トルク化が容易であることは周知であった…。したがって、甲2発明には、トルクを高めるという周知の課題を解決するため、甲1発明を適用する動機付けがあるから、甲2発明に、甲1発明のアウタロータ型電動モータを適用し、相違点Ⅰの構成とすることは当業者にとって容易想到であった…。
(4)相違点Ⅱの容易想到性について
イ …相違点Ⅱについて検討すると、アウタロータ型電動モータにおいて、磁石を保持するために、複数の磁石をステータの外周側(ロータの内周側)に沿って配置し、接着剤固定法等により「貼設」することは、周知技術である…。
したがって、上記周知技術を適用して、相違点Ⅱの構成とすることは当業者にとって容易想到であった…。
【コメント】
裁判所は、アウタロータ型電動モータにおける周知技術を認定し、その周知技術を適用して、相違点Ⅱの構成とすることは当業者にとって容易想到であると判断した。しかし、甲2発明の電動モータは、インナロータ型であって、アウタロータ型ではない(相違点Ⅰ)。アウタロータ型電動モータにおける周知技術を、インナロータ型の電動モータを採用する甲2発明に適用できるとした点には、違和感がある。
裁判所が指摘するように相違点Ⅰ及び相違点Ⅱは独立したものとして区別し得るのであれば、相違点Ⅰの容易想到性とは関係なく、相違点Ⅱの容易想到性が判断されるはずである。しかし、裁判所は、まず相違点Ⅰを解消し、相違点Ⅰが解消された甲2発明(甲2発明とは異なる発明)について、相違点Ⅱが容易想到であると判断しているように見える。
(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 小林 紀史)
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