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特許 令和5年(行ケ)第10132号
「地盤固結材および地盤改良工法」
(知的財産高等裁判所 令和6年10月30日)

2月5日(水)配信

 

【事件概要】
 この事件は、特許を取消した異議決定の取消しを求めた事案である。
 裁判所は異議決定を取消した。
判決文を「IP Force 知財判決速報/裁判例集」で見る

 

【主な争点】
 本件訂正発明1と引用発明との相違点が容易想到であるか否か。

 

【結論】
 本件訂正発明1及び引用発明の地盤改良工法で使用される地盤固結材は、水ガラスと微粒子スラグを有効成分とする懸濁液(懸濁型グラウト)であり、固結の原理は、「低モル比シリカ溶液中のアルカリ分が微粒子スラグの潜在水硬性を刺激して固化するとともに、低モル比シリカ溶液のシリカ分が微粒子スラグのカルシウム分と反応してゲル化するため、土砂中においてスラグによる固結部分の間をシリカのゲルが連結することにより一体化した固結体が形成される」というスラグの水硬性によるものである。他方、甲5文献、甲6文献及び甲9文献に記載されている地盤固結材は、…であり、その固結の原理は、注入液が「土粒子間浸透するにつれ、土との接触部のpHが中性方向に移行するとともにゲル化が進行」(甲5)する、「注入された酸性の薬液は土中のアルカリ分と反応して、ほぼ中性になると固結が始まる」(甲6)という地盤のpH によるものであり、本件訂正発明1及び引用発明の地盤固結材とは固結の原理を異にする。
 また、地盤改良工法の注入の条件について、甲5文献、甲6文献及び甲9文献は、…マグマアクション法を説明している。しかし、当該マグマアクション法は、あくまでも酸性の薬液が土中のアルカリ分と反応して固結する場合の注入の条件について述べたものであって、薬液中のスラグの水硬性により固結する本件訂正発明1及び引用発明の地盤固結材の注入の条件として当然に妥当するものということはできない。固結の原理が異なる以上、同じ地盤改良の技術分野であるからといって、同じ注入条件で大径の高強度固結体を形成するという課題を実現することができるとは直ちにいうことはできないからである。甲5文献、甲6文献及び甲9文献中にも、マグマアクション法を、固結の原理を異にする懸濁型グラウトに適用し得ることを示唆するような記載等は見られないから、当業者において、引用発明及びこれらの文献から、本件訂正発明1及び引用発明の懸濁型グラウトの特性(1次ゲル化、疑塑性、2次ゲル化)に応じた注入条件を容易に想到することはできないというべきである。

 

【コメント】
 被告(特許庁)は、「本件決定は、甲5文献、甲6文献及び甲9文献の技術事項の「ゲルタイム」は、本件訂正発明1の「1次ゲル化に到る時間」と同等か、それよりもより硬化が進んだ状態に対応する時間と考えられることを根拠に、引用発明の地盤固結材の地盤への注入を、土中ゲル化時間(GTso)以上の時間をかけて行えば、本件訂正発明1の特定事項に至ると判断した」旨主張したが、裁判所は、そのようにいうことはできないとして被告の主張を採用しなかった。

 

(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 吉住 和之)

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